2024/06/27 08:00

*noteに投稿した記事の転載です。

【なぜ牛を飼うことになったのか?】
 私は、1頭の黒毛和牛の母牛「あきひめ」を農家からもらって、今から約15年前に牛を飼い始めました。なぜ牛を飼い始めたのか?その理由は、「お金のため。」でした。27歳で鹿児島の口永良部島という小離島に移住した私が島で暮らしていくための「手段」として、牛を飼い始めました。
 牛はもちろん、いわゆる農業や畑仕事なども全くしたことがなかったし、当時は今みたいにインターネットの時代でもなく、携帯の電波も届かないような島だったので、何もかも全て、島の農家に教えてもらっていました。

【なぜ自然放牧で牛を飼うのか?】
 そんなど素人が島で暮らすために牛を飼い始めたのですが、当初から「自然放牧で牛を育てたい。」と思っていました。その理由は、「儲けるため。」でした。もちろん、ただ儲けることだけを考えていたわけではないのですが、僻地の離島で1日でも早く仕事として稼ぐことが「目的」だったので、母牛の種付けや分娩の他、子牛の哺乳から育成までその全てを、できるだけ自然に行う自然放牧でしか、稼ぐことは難しいと思っていました。

【なぜ牛飼いを続けるのか?】
 そのような理由で、口永良部島で牛飼いを始めたのですが、結局7年で島を離れることになりました。詳細は割愛しますが、その後も、薩摩黒島で3年、宗像大島で3年、島暮らしを続けていて、その間もずっと牛を飼っているので、現在の大分に来るまで計3回、牛をフェリーとトラックに載せて引っ越しています。なぜ3回も牧場を引っ越したのか?その主な理由は、「自然放牧ができなくなったから。」です。島には限りませんが、牛を自然放牧で育てるためには、多くの人たちの協力が不可欠です。何度となく「牛飼いを辞める。」という決断を迫られたのですが、これまで協力してくれた人々と犠牲になってきた牛たちへの「恩返しのため。」、牛飼いを辞めるわけにはいかなかいという結論になりました。

【何のために牛を飼うのか?】
 私は、牛がすごく好きなわけでもなく、おいしい肉を作りたくて牛を飼ってはいないので、「なぜ牛を飼っているのか?」と聞かれていつも困っていました。私の座右の銘は、坂本龍馬の「世に生を得るは事を為すにあり。」で、私なりの解釈では、「どうせ生きるのだから、何かを残して死ねよ。」です。私は、学生時代から現在まで、自分の存在価値を「他人がやらないことをやること。」と定義しています。牛飼いを始めてから本当にいろんなことがあったのですが、こんな自分がどうせ牛を飼うのだから、他の農家がやれないことをやりたいと思いました。それが「牛の幸せを考える牧場」です。

【牛の幸せを考える牧場とは?】
 ほとんどの牛飼いは、牛の幸せを考えています。私より牛を大切に育てる人をたくさん見てきたし、新規就農者や新規参入者の人たちには、特にその傾向が強くて心強いです。ただ、私を含めた全ての畜産農家は、家畜を経済動物として飼っているので、現実的には「家畜の幸せ<人間の幸せ(お金)」で、私たちの幸せのためには、牛たちの不幸はやむを得ないのです。それでも私は、「牛たちの幸せ=私たちの幸せ」を追求したいと考えています。なぜなら、私自身が自然放牧で牛を育てることを通じて、自然の厳しさや生命の有難さを体感し、生きることの意味や食べることへの感謝を実感しているからです。そういう意味では、まだ「牛の幸せ<私の幸せ」なのかとも思うので、これからもより一層と牛の幸せを考え続けていきたいです。